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迷探偵タルト/ドキドキ猫キュア つぼみ「きゃー!><」 えりか「どうしたっしゅ?」 美希「何事!?」 つぼみ「ラブさんが・・・ ラブさんが・・・」 ラブ「・・・」 せつな「まさか!! ラブ! ラブ!」 ブッキー「死んでる!!」 美希「いや・・・ 死んでないし」 六花「頭をうって気絶してるだけだから・・・」 タルト「これは 事件の匂いがするでぇ!! ピーチはん殺人事件や!!」 美希 六花「いや だから 死んでないし」 せつな「誰が 誰が 私のラブを><」 タルト「犯人は ワイがみつけたる! この名探偵の名にかけて!!」 つぼみ「すごい 自信です!?」 えりか「本当に大丈夫なの?」 タルト「ふっふっふ ワイにはもう 犯人はわかってるんやで(笑)」 ブッキー「本当なの!? 」 タルト「犯人は・・・ あんさんや!!」 つぼみ「・・・ えええ!! わたし!?」 えりか「どういうことよ!?」 タルト「第1発見者が 怪しい・・・ よくあるパターンや。それに あの壊された植木鉢が何よりの証拠!! 花を駄目にされて 堪忍袋が切れた勢いでブロッサムはんは ピーチはんを・・・。そして あたかも第1発見者を装ったんや」 せつな「・・・」 えりか「・・・」 美希「・・・」 ブッキー「・・・」 六花「・・・」 つぼみ「ち ちちち違います>< 私じゃありません!!」 せつな「お願い つぼみ 自首して><」 えりか「いつかはやると思ってたけど ついに・・・」 つぼみ「もう!えりかまで!! 本当に堪忍袋の緒が切れますよ!!」 美希「めちゃくちゃだけど 筋は通ってるわね・・・」 つぼみ「まって下さい! 私より怪しい人なら 他にいます!!」 タルト「ほほお それは 誰や?」 つぼみ「奏さんです!! この部屋に頻繁に出入りしてましたから 怪しいです><」 せつな「なんですって!?」 タルト「むむむ それは 怪しい 怪しすぎるで」 奏の証言 奏「確かに ラブのいる部屋には行ってたわ。響に会いにね」 美希「そういえば ラブと同じ部屋だったわね」 今更だが ラブ達はかれんの別荘に遊びに来ているという 設定である 奏「今日も 行ったけど ラブも響もいなかったから 仕方なく カップケーキだけ置いていったのよ」 タルト「それは 嘘やな」 奏「何でよ」 タルト「カップケーキがあらへんからや」 奏「そんな事知らないわよ!確かに置いたんだから!!」 タルト「往生際がわるいなぁ リズムはん」 奏「第一動機がないじゃない!」 タルト「あるで」 せつな「え!?」 タルト「悪夢獣と戦った時 メロディはんはピーチはんと共闘していた。 それにリズムはんは嫉妬したんや!! それに 今回も 二人は同室 リズムはんは気が気でなこったはずや!!」 六花「分かる 分かるわ その気持ち」 奏「同情しなくていいから!! 本当に響に会いに行っただけなんだって!!。てゆうか その理論だったら せつなのほうが 怪しいじゃない!」 せつな「どうして 私がラブを殺さなくちゃいけないのよ!!」 美希「いや 生きてるから」 奏「響に浮気したと思って 怒って 揉めた弾みにとか」 せつな「失礼ね! 私は そんな事しないわよ」 奏「冗談よ そんなに怒らないでよ」 せつな「とにかく 一番 怪しいのは奏よね」 奏「だから 違うって」 タルト「ん? これは なんや? パクっ これは・・・ カップケーキのカスや」 奏「誰かが食べたからなかったのね!!」 えりか「犯人は食いしん坊だね(笑)」 れいか「みなさん 何かあったんですか?」 みゆき「ラブちゃん!!」 黄瀬「そんな プリキュアで殺人事件がおきるなんて」 あかね「いや 死んでへんやろ」 なお「お腹すいた~」 あかね「さっき ケーキ食ってたやろ(呆れ)」 れいか「なおは 食いしん坊ですから・・・」 奏「ケーキ!?」 なお「美味しそうだったから つい・・・ ごめん><」 タルト「犯人はあんさんやー!!」 なお「え?え?」 タルト「盗み食いをしようとした所を見つかって ピーチはんをやったやんやな!!」 せつな「そんな たかがカップケーキの為に ラブは・・・」 なお「違うよ~!! 私が行った時は誰もいなかったんだよ><」 せつな「そんな事行って~><」 美希「せつな 落ち着きなさいって」 ダークプリキュア「あれれ? あんな所に ほうきが落ちてるよー?」 タルト「なんやて?」 えりか「ダークプリキュアって あんなキャラだったっけ・・・?」 タルト「ほうき・・・ 開いた窓・・・ そうか そういうことやったんや」 ブッキー「タルトちゃん・・・?」 タルト「謎は すべて 解けた! 犯人はマジカルはんや!!」 リコ「ちょっと いきなり 呼び出してなによ!!」 タルト「この事件の凶器 それは マジカルはんのほうきや」 みゆき「えー!?」 あかね「なんやてー!!」 タルト「マジカルはんはほうきが下手でよく落ちる」 リコ「落ちてないし!! 」 タルト「今回も そのドジのせいで起きた悲劇やったんや」 リコ「ドジってなによ!!ドジって!!」 タルト「バッディを襲った時と同じように マジカルはんは あの窓からこの部屋につっこんでしまったんや そして 運悪く そこにいたピーチはんに激突してしまい そのせい で ピーチはんは・・・」 せつな「・・・」 美希「・・・」 ブッキー「・・・」 六花「・・・」 つぼみ「・・・」 えりか「・・・」 リコ「ちょ!? なに その 冷たい目は!! 違うわよ!? だって 私 ほうき持ってるし」 やよい「あ」 奏「リコじゃないとすると 一体誰が」 みらい「あったー わたしのほうき><」 モフルン「みつかってよかったモフ♪」 せつな「・・・」 美希「・・・」 ブッキー「・・・」 つぼみ「・・・」 えりか「・・・」 奏「・・・」 六花「・・・」 みゆき「・・・」 あかね「・・・」 やよい「・・・」 なお「・・・」 れいか「・・・」 リコ「」 みらい「リコ? みんなも どうしたの?」 タルト「犯人はあんさんやー!!」 みらい「今 犯人っていいました!?」 せつな「あなたが ラブをやったのね!! 」 リコ「みらい・・・あなた なんてことを」 みらい「違うよ~>< 私は無くしたほうきを探してただけだもん」 ラブ「う~ん」 せつな「ラブ!!」 ラブ「あれ? みんな・・・ そうか 私」 美希「一体 何があったの!?」 ラブ「みらいちゃんのほうきがあったから 本当に飛べるのかな?って思って 響ちゃんと 乗ってみたら コントロールできなくて 勢いよく落っこちちゃって いや~まいった まいった(笑)」 せつな「もう 人騒がせね」 六花「そっちが勝手に騒いでただけだと思うけど」 奏「そういえば 響は?」 ラブ「あれ?」 みゆき「ねえ ねえ 下で寝てるの 響ちゃんじゃない?」 リコ「下の茂みのほうに落ちてたのね・・・」 響「・・・」気絶中 タルト「まあ、これで 事件解決やな♪」 つぼみ「待ってください」 奏「よくも疑ってくれたわね」 なお「逃げるなんて筋が通ってないよ!」 リコ「どんな魔法をかけてやろうかしら!!」 みらい「リコちゃん 私も手伝うよ!」 タルト「まって かんにんしたってや~>< 助けて~」 5人「ま~て~」 タルト「うーん うーん みんな 許してや・・・ うーん うーん」 シフォン「ぷりぷ?」 と 言う 夢をみていた タルトでした 迷探偵 タルト 完
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桃園家。蒸し暑い夏の夜。 寝苦しさに何度もベッドの上で寝返りを打つ私の耳に、部屋のドアをノックする音が届いた。 「へへ……せつな、起きてる?」 返事を待たずに開いたドアから顔を覗かせるラブ。 「起きてるわよ……今夜は一段と暑いんですもの……眠れないわ……」 「ホントだよねー…ね、ちょっと話でもしない?どうせ夏休みだし……少しくらいの夜更かしならいいで しょ?」 「そうね……少しくらいなら」 気候すら管理されていたラビリンスとは違い、この世界は四季の移り変わりを感じさせてくれる素敵な ところ。 だけど、如何せんこう暑くてはそれすら恨めしく感じてしまう。 現在進行中のラビリンスの改革にはそういった所も取り入れていきたいわね……でもやはり自然を管理 するのは良くないし……。 「もー、またラビリンスの事考えてるでしょ?な・つ・や・す・み、だよ?せつな」 「あ、ごめんなさい…。つい、ね」 ラブの指摘も最もだわ。せっかく休暇をもらってこっちに戻ってきてるのに……。 「……だけどちょっと考えちゃうのよ。こう暑くて眠れないと次の日に影響があるかもしれないでしょ? こちら側ではどうしてるのかしら?」 「んー、そうだなー。暑い時は怖い話なんか定番かも。ヒュ~…ドロドロ~、ってね。『怪談』っいうの」 両手をだらりと胸の前で垂らすラブ。 ―――?『かいだん』?よく理解できないけど……怖い話をすれば熟睡できるのかしら? もしその方法が適しているのなら―――あ、いけないいけない。 「まあもう少ししたら涼しくなるし……寝苦しいのも今のうちだけだよ。ホラ、覚えてない?去年の冬と 今年の春の事……」 ラブの言葉に、私の脳裏にある記憶が蘇る。 そうそう、確かあれは―――――。 * 「ねえラブ、これは何?」 季節は冬。大雪に見舞われ、一面真っ白になってしまったクローバータウン。 それを珍しがるせつなにせがまれて、公園へと散歩に来ていたあたしの目に入ったのは……。 「ああ、これはカマクラ、っていうんだよ。懐かしいな。昔はお父さんと作ったりしたっけ」 「?カマクラ?この半円状のドームのようなものにどういう意味があるの?」 「んー…どういう意味って言われると難しいけど、この中は空洞になってて、入ると暖かいんだよ」 「え?雪の塊なのに暖かいの?」 不思議そうにするせつな。 説明するにしてもどう言っていいか分からないあたしの目に、少し陰に作られた小さな楕円状の入り口 が映る。 「そだ!中に入ったら分かるんじゃないかな?ろんよりしょーこ、ってね」 「あ、ラブ、勝手に入ったら……」 引き止めるせつなを置いて、あたしは膝をついて入り口をくぐる。 うーん…入りにくいな……何でこんなに小さく作ったんだろ……まるで何かを隠してるみたい……って ……。 「わ!!」 「ど、どうしたの?!ラブ!?」 あたしの声に驚いたのか、せつなも慌てて入り口から入ってくる。 中に入ったあたし達を待っていたのは、暖かい、どころではないすごい熱気と―――――。 「ら、ラブちゃん!?せつなちゃん!?」 何故か冬だと言うのに半裸で前を手で隠す……ブッキーだった。 「―――というワケで、冬山なんかで体温が低下すると眠くなってしまって遭難っていうパターンが多い から……本来は濡れた衣服を替えてあげて乾いた物に着替えさせたりした方がいいんだけど。そうそう、 私たちは未成年だけど、そういう時はお酒を飲ませたりしてはいけないのよ。血管が広がって熱放射量が 上がるし…逆に煙草は血管を収縮させるからダメなんだけど」 ブッキーの講釈を、ふんふん、と真面目に頷きながら聞き入るせつな。 あたしはといえば、そんな事よりもブッキーの傍に横たわってる「彼女」が気になって仕方がない。 「―――で、よくドラマなんかである方法はどうなのかなって思って……ちょっと試しに、ね」 一通り聞いた後、感心したように小さく拍手をするせつな。 ブッキーはその反応に照れたように微笑んだ。 (ちょっとって……ここまでやっておいて) 二人に聞こえないように小声でツッコミを入れるあたし。 「成程、そういう理由だったのね。納得したわ」 「嬉しい、分かってくれたのね、せつなちゃん!……ラブちゃんは?」 「あ、あは……分かったような、分からないような………」 まあなんとなく状況は分かったかな。 要はその……ブッキーが暴走しちゃったって事よね。 誤魔化そうと必死なブッキーを余所に、あたしはちらりと「彼女」を盗み見た。 えーと、つまり、ブッキーの説明によると体温の低下とやらで眠っちゃってる「彼女」。 その身に受けた快感の余韻からか、意識もなく大きく胸を上下させている―――蒼乃美希を。 あたしは目のやり場に困りつつ、裸で暖めあうのもいいけど、美希たんに下着くらい着せてあげてくれ ないかな、なんて考えていた。 * 季節は春。クローバータウンからちょっと離れた丘へと続く小道を、私とラブはのんびりと歩いていた。 穏やかな日差しが心地良い……ラビリンスもこんな風に変わっていって欲しいものだわ。 「ふわぁ~あ……むにゃ…」 「ラブ……女の子なのにはしたないわよ?」 口を大きく開けて欠伸をするラブをたしなめる。 「それとも……私と一緒じゃ退屈?」 「そ、そんな事ないって!久しぶりにせつながこっちに来たんだもん!退屈なんて―――」 「ふふ、冗談よ。―――昨日よく眠れなかった?」 「ん、そうでもないんだけど……なんかね、春は眠くなる季節なんだよ」 ?眠くなる季節?変な言い訳ね。 「……で、ラブの言ってたお花見のスポットってどこにあるの?」 「もうちょっとだよ。林の奥まったところにあるから、普通の人は絶対に入って来ないちょー穴場なんだ。 子供の頃美希たんやブッキーとよく来たんだよ」 こっちこっち、と手招きするラブに続いて裏道へと入り、藪をかき分け先へと進む。 へえ、クローバータウンの近くにこんなところあったのね……。 少し歩くと、私達の前に咲き誇る大きな桜の木が現れた。 「す……ごい……」 「でしょ~!きっとクローバータウンでも一番大きな桜の木なんじゃないかな。もっと近付いて―――――」 言った途端、硬直したようにラブが足を止める。 あまりにも唐突だったので、私はその背中に思い切りぶつかってしまい……。 「痛た……ら、ラブ、どうしたの?」 鼻を押さえ、立ち止まったラブの脇から前を覗く私。 そこに見えたのは舞い散るピンク色の桜の花びらと――――。 「ラ、ラブちゃん!?せつなちゃん!?」 私達の登場に焦ったかのようにわたわたと着衣の乱れを直す……ブッキーの姿だった。 「―――だから、春になると眠くなるというのは元々は漢詩から来ているのよ。孟浩然って人の書いた一節 ………『春眠暁を覚えず』っていうのがあって、春の寝心地のよさに朝になったのも気が付かないって事 なんだけど。確かに気候的には冬や夏と違って過ごしやすいからそう言う風に言われるのも分かるわよね。 ぽかぽかして気持ちいいから……お昼寝なんかにも向いてるし」 すごいわ。ブッキーは本当に何でも知っているのね。勉強になるわ。 ということは、さっきラブが眠くなる季節って言ってたのもあながち間違いではないんだわ。 「という事でついつい桜を見ているうちにうたた寝をね―――聞いてる?ラブちゃん?」 「え?あ、き、聞いてるよー」 ブッキーの声にハッとしたように返事をするラブ。 ラブったら……折角ブッキーがためになることを教えてくれてるのに……。 ふふ、本当にお勉強は嫌いなんだから。 「もう、ラブったら……あなたまで眠くなって来ちゃったの?そういえば授業中もよく居眠りしてて先生に 怒られてたものね。さっきも欠伸してたし……」 「い、いやあ~、ね、眠気ならすっ飛んじゃったよ……は、ははは……」 ブッキーの傍で横になっている「彼女」を横目で見ながら、照れたように笑うラブ。 ―――まあそれも仕方ないわ。私もさっきからちょっと気にはなっていたし。 それにしても……いくら眠いからっていっても屋外なんだし、あんな風に無防備に寝ちゃうのはどうなの かしら。それに……。 (……全く……起きたらきっちりと叱ってあげなくちゃいけないわね) いくらなんでも服を全部脱ぎ捨ててお昼寝なんて、有り得ないもの。 私は心の中でお小言の内容を考えながら、「彼女」―――怖い夢でも見てるのか、時折身体をビクビクと 震わせている蒼乃美希を見つめていた。 * 「……美希はいつでもよく寝てたわよね……呆れちゃうくらい。こんなに暑くてもグッスリなのかしら?」 「あ、あはは……ぶ、ブッキーがもしも一緒ならそうかもねー」 「?どういう事?」 あたしの台詞に眉をひそめるせつな。あ、やっぱり分かってないんだ……どれだけ純粋なんだろ。 だけど―――それならそれで……。 「あ、よく眠れる方法をブッキ―が知ってるって事だよ。せつなも良かったら試してみる?」 「何?さっき言ってた『かいだん』っていうもの?」 「わはー、『かいだん』っていうよりも……」 胸の前で両手を構え、指をワキワキ動かすあたしを見て、せつなは何か勘違いしちゃってるみたい。 あたしは油断しまくってる様子の彼女に一気に踊りかかる。 「ちょ、ちょっとラブ―――な、何を―――!!」 ベッドに押し倒され。突然の事に目を白黒させるせつな。 そんな事お構いなしで、あたしは彼女の着ている赤いパジャマの下に手を潜り込ませていく。 「ん……ら、ラブ……やめ……」 「……『かいかん』かもー、ぐはっ、なんちゃってー」 戸惑うせつなに強引にキスすると―――――――。 せつながたっぷりと汗をかいた後、気を失うように眠りについた、なんてのは言わなくてもいいかな。 ……けどラビリンスでこの方法を広めたりなんかは……しない、よね? ちょっぴり不安。 了 5-575は物語の始まりで…
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「熱く短く静かな夜」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY 背中に柔らかい感触と温もり。 そして素肌を滑る指先を感じて、美希は微睡みから引き戻された。 (……ん…?……な、に?) ビクッと震えが走り、乳首を刺激されている事に気が付いた。 もう片方の手は既に下着の中に潜り込み、やわやわと 薄い茂みをまさぐっている。 まだ半分夢の世界にいた美希は一気に覚醒する。 (やだ…!祈里ったら何考えてるのよ!) 上のベッドにはラブとせつながいるのに……! 何となく恒例となってきているパジャマパーティー。今夜は桃園家。 ラブの部屋でラブとせつなはベッドに、美希と祈里はその下に 布団を敷いて寝ていた。 今まで何度かこう言うお泊まり会はしているが、こんな事をしてくるのは 初めてだった。 「………ん………ふっ………ぅ…んっ……」 (……ーーっ!……せつな?) 上から漏れ聞こえる湿った息遣い。 耳を澄ますと微かに響く濡れた場所を掻き回す音と、 シーツを引っ掻くような衣擦れの音。 「……せつな、声出しちゃダメ…。」 宥めるようなラブの声は、抑え切れない興奮に甘く掠れている。 恐らく必死に声を噛み殺しているだろうせつなの様子を 楽しんでいるのが、ありありと感じ取れた。 (ーーっあん!やだぁ……。) 上の二人に気を取られている隙に、祈里の指は美希の奥まで 忍び込んでいた。 柔らかな秘肉をかき分け、指に蜜を絡め取る。 熱く疼く突起を探り出すと、押し潰すように圧迫しながら 指の腹を擦り付けてくる。 (あっ!あっ!そんなにされたら…!) 乳首と陰核を同じリズムで捏ね回され、快感が出口を求めて 美希の全身を這い回る。 せつなのように、僅かな吐息を漏らす事も許されない。 ほんの少しでも息を漏らせばバレてしまう。 美希は歯を喰い縛り、全身の筋肉に力を入れ、 愉悦に跳ね上がりそうになる体を押さえていた。 「……ほら、せつな、足閉じないの。だから逝けないんでしょ?」 「……っ!……ふぅ…っ!」 「…イカなきゃ、終わらないよ……?」 ラブの声と共に、美希の耳元に祈里の昂った吐息が漏れるのを感じた。 美希の乳首と秘所を弄ぶ指使いが激しくなる。 体の中で膨れ上がる快楽に美希は目を霞ませる。 やがて、キシッ…キシッと鳴っていたベッドの軋む音が止まり、 熱の籠った空気が揺れる。 せつなが、達してしまったのを感じた。 その気配を祈里も読み取ったのか、激しさを増していた 愛撫の手を一端止め、ラブ達の様子を息を殺して窺っている。 ドクドクと体中を駆け回っていた血液が足の間に集まってきた。 美希は疼く体を持て余しそうになりながら、じっと堪える。 しばらくすると、ラブはせつなを促し部屋を出て行った。 覚束ない足取りでラブに支えられながらせつなが付いて行く。 「……どうやら、続きはせつなちゃんの部屋でするみたいね……。」 祈里は美希をコロンと仰向けにして、髪を撫でる。 「美希ちゃん、えらかったねぇ。イイコイイコ…。」 「…祈里ぃ…。」 じっと、声を立てずに耐えた美希を労るように、額から 頬に唇を這わせる。 「頑張った子にはご褒美あげないと、ね?」 美希は自分から下着を脱ぎ、大きく足を開く。 体に燠火のように燻る情欲は、もうとうに限界を迎えている。 早く、滅茶苦茶にして欲しい。もう、我慢なんて出来ない。 「もう…美希ちゃんったら。お行儀悪いよ?」 少し意地悪い祈里の物言いに頬を染めながらも、美希は逆らわない。 僅かな羞恥は快楽へのスパイスにしかならない事を、もう身に染みて 教え込まれてしまったから。 「あんまり大きな声出しちゃダメだからね。」 「あっ!はぁああっ、ああんっ!」 美希の足の間に顔を埋める。 熱く滑らかな舌が、敏感な場所を余す事なく容赦なく責め立てる。 隣の部屋でも、多分同じ事が行われてる。 せつなも抑えていた恥じらいをかなぐり捨て、思う存分ラブに 泣かされているのだろう。 さっき、漏れ聞いた切な気な吐息が美希の耳に甦る。官能に咽び泣くせつなの姿を思い浮かべ、 美希はいつも以上に貪欲に昂るのを自覚した。 今夜は見も世もなく、祈里を求めて乱れてしまいたい。 祈里も、きっと同じ事を望んでるはず。 美希は、自ら祈里の頭を押さえ付けるように腰をくねらせた。 短い夜を、少しでも長く楽しむために。 ラせ2-21はラブせつサイド。(R18につき閲覧注意。)
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その夜、ラブは、本当に大急ぎで夕飯とお風呂を済ませて来てくれたみたいだ。 まだ髪が少し湿ってる。 ベッドに潜り込み、私に手を伸ばして来る。 反射的に、少し身を引いてしまった。 「今日は、何もしないよ…。」 ラブは少し苦笑しながら私を胸に抱き込み、宥めるように背中をさすってくれる。 額に唇を寄せ、指が優しく髪を梳き、頬や肩を滑っていく。 胸いっぱいにラブの匂いを吸い込む。溜め息が漏れ、また涙が出そうになる。 あんまり泣いてばかりだと、ラブが困るのに。 きっと私は、ずっと、こんなふうにしてもらいたかったんだ。 ただ、優しく抱き締め、撫でてもらう。 何もかも包み込まれる、温かく、幸せな時間。 あの日、祈里との関係が始まってしまった日。 私が正直に話せば、ラブはこんなふうに抱き締めてくれたんだろうか。 ラブの胸に顔を埋めながら、私はポツポツと今までの事を話す。 いざ言葉を紡ぎ出すと、話せる事はそんなに多くない、と言うことに気づく。 ある切っ掛けで祈里と体の関係になってしまった事。 それ以降もずるずると会い続けていた事。 もう会わないと決めて、今日、そう祈里に告げた事。 それだけ。 恐らく、ラブが一番知りたいであろう『切っ掛け』、については、 話そうとすると舌が強張ってしまう。 隠したい訳ではない。 ただ………、どう言っていいかわからない。 事実をそのまま話す。それが一番いいのだろう。 でもそうすると、どうしても祈里を責めるような言い方になってしまう気がするのだ。 「無理しなくていいよ……。」 私が言葉に詰まる度、ラブはそう言ってくれる。 ひょっとしたらラブも聞きたくないのかも知れない。 そんな都合の良い思いが頭を掠める。 さっきのラブの言葉も相まって、ますます私の口は重くなる。 『せつなが言いたくない事は、言わなくていいんだよ。』 こんな事になってまで、ラブに甘えている。すべて話そう、そう決心したのに。 抱き締められ、胸の中で甘やかしてくれるラブにすがりついている。 「……困ったコだね、せつなは…。」 不意に、ぎゅっと私を抱いていたラブの腕に力がこもる。 「あのね、せつな。他所で辛い事があったらね、 ただ泣きながら帰ってくればいいの。」 そしたら抱っこして慰めてあげるんだから。 そう言って、ラブはますます力を入れてくる。 まるで、私を自分の中に包み込んでしまおうとするように。 まるで子供をたしなめるような口調のラブに、私は少し苦笑したくなる。 「……なんだか私、小さな子供みたいね……。」 「小さいコだよ!夏に生まれ変わったばっかなんだから。」 赤ちゃんみたいなもの!ラブはそう言い切って私の髪をクシャクシャに掻き回す。 まぁ、確かにこちらの常識は知らないし、人付き合いも下手だし…… でも、ハッキリそう言われてしまうと…… 「うん、何か分かった。これが足りなかったんだよ!あたし達には!」 ラブは唐突とも思える言葉で私の物思いを遮る。 何が?と問う間もなく…… ぎゅう…とまたラブが抱き締めてくる。 「……気持ち良い?」 戸惑いながらも、私は素直に頷く。 「他には?」 温かい。良い匂い。安心する。 私は思い付くままに言葉を並べる。それから…… 「……ラブが、大好き……。」 「うん!あたしもー!」 にゃはは、といつもの笑い声を上げ、ラブがぐりぐりと頬擦りしてくる。 「せつなにはね、抱っこが足りなかったんだよ。」 「………抱っこ…?」 「そう!」 ラブが私の頬を両手で挟んで見詰めてくる。 「だから、あたしはせつなに信じてもらえなかったんだよ……。」 意味が、分からない。 ラブは何を言ってるの? 私そんな事、考えた事もない。 私がラブを信じない、そんなの想像すら出来ないくらいなのに。 慌て反論しようとする私の唇をラブが人差し指で押さえる。 「あたしは、せつなを安心させてあげられてなかったもんね。」 本当に、ラブは何を言ってるの? 私がラブを信じてない?安心してない?どうして? 愛情も、安心も溢れるくらいもらってる。 現に今だって、こうして抱き締めてもらってる。 裏切りの言い訳一つ、まともに出来ない。 ラブの優しさに甘えて、罪の告白すら中途半端にしか出来ない。 臆病で脆弱で、傷付けたラブに甘える事しか出来ない私なのに。 「せつな、怖かったんでしょ?あたしに嫌われるかも……って。」 だから、何も言えなかったんだよね? 「傷付いてるせつなを見て、あたしが嫌ったりすると思った?」 それが、どんな原因でも。 「いーっぱい抱っこされて、愛されてる自信のある子はね、外で泣かされて 帰って来てもね、また抱き締めてもらえばすぐに泣き止めるんだよ。」 だから、あたしはせつなの心をもっと抱き締めてあげなきゃいけなかったんだよ。 「ごめんね、せつな。」 ラブが見つめる。胸の奥がきゅっと苦しくなる。 どうしてラブが謝るの?ラブは何も悪くないのに。 それなのに、私は、もっと愛してもらえるの?どして? どうして、ラブはこんなに私なんかを大事にしてくれるんだろう。 「せつなは、もっと欲張りになってもいいくらいなんだよ?」 ちっちゃい子がママに抱っこせがんだって誰も笑わないでしょ? もっともっと我が儘言ってもいいんだよ。 ラブはあくまでも私を小さな子供として話を進めようとする。 私は悪くない……。そう言ってくれてる。 小さな子供が些細な失敗を隠す為に、見え見えの嘘をつく。 その嘘を誤魔化す為にまた嘘を重ねる。 でも結局、小さな子供はそんな自分に耐えきれなくて、最後は泣いて お母さんに謝る事になる。 だって、お母さんはいつだって許してくれるから……。 「ラブは……私のお母さんなの?」 「まっさかぁ!あたし達はラブラブの恋人同士でしょー?」 「だから抱っこ以外も色々しちゃうんだもん。」 ラブは私を抱き締めたまま、チュッと唇をついばんでくる。 「………んっ……」 優しく柔らかな感触に、思わず甘えた吐息が漏れる。 「コラコラ、そんな声出さないの。……続き、したくなっちゃうでしょ……?」 「………しても、いいのに……。」 ラブは困った顔してる。ホントに私は構わないのに……。 ラブさえ嫌じゃなければ……。 「あのねぇ、今までがおかしかったの。具合の悪いせつなに色々してた あたしは、すごーく悪い子だったの。だから今、反省中。 せつなが元気になるまで我慢しなくちゃダメなの!」 間違ったり、失敗するのは仕方ない事。 それに気付いたら、反省して、やり直す。 それしかないよね? 「今せつなに必要なのは、ラブさんの愛情たっぷりの抱っこ! それに、たくさん眠る事だよ。」 ラブの優しい声。温かい手。柔らかく、包んでくれるぬくもり。 「……はい…。」 「うん、いいお返事です。」 幸せだ……と感じる。 もう二度と戻れない。そう思っていた場所は、以前よりも優しい場所になって 私を迎えてくれた。 まるで羊水にくるまれた胎児のように、安らかな微睡みに誘われる。 うつらうつらと暖かい闇に意識を持って行かれそうになる中、 一人の面影がちらつく。 (………祈里…………) 彼女はまだ、冷たい闇で一人うずくまっているのだろうか。 どうすれば、彼女にも安らかな微睡みが訪れるのか……。 ラブのぬくもりに包まれて、せつなは長く忘れていた深い眠りの中に漂っていった。 黒ブキ19へ
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その夜、ラブは、本当に大急ぎで夕飯とお風呂を済ませて来てくれたみたいだ。 まだ髪が少し湿ってる。 ベッドに潜り込み、私に手を伸ばして来る。 反射的に、少し身を引いてしまった。 「今日は、何もしないよ…。」 ラブは少し苦笑しながら私を胸に抱き込み、宥めるように背中をさすってくれる。 額に唇を寄せ、指が優しく髪を梳き、頬や肩を滑っていく。 胸いっぱいにラブの匂いを吸い込む。溜め息が漏れ、また涙が出そうになる。 あんまり泣いてばかりだと、ラブが困るのに。 きっと私は、ずっと、こんなふうにしてもらいたかったんだ。 ただ、優しく抱き締め、撫でてもらう。 何もかも包み込まれる、温かく、幸せな時間。 あの日、祈里との関係が始まってしまった日。 私が正直に話せば、ラブはこんなふうに抱き締めてくれたんだろうか。 ラブの胸に顔を埋めながら、私はポツポツと今までの事を話す。 いざ言葉を紡ぎ出すと、話せる事はそんなに多くない、と言うことに気づく。 ある切っ掛けで祈里と体の関係になってしまった事。 それ以降もずるずると会い続けていた事。 もう会わないと決めて、今日、そう祈里に告げた事。 それだけ。 恐らく、ラブが一番知りたいであろう『切っ掛け』、については、 話そうとすると舌が強張ってしまう。 隠したい訳ではない。 ただ………、どう言っていいかわからない。 事実をそのまま話す。それが一番いいのだろう。 でもそうすると、どうしても祈里を責めるような言い方になってしまう気がするのだ。 「無理しなくていいよ……。」 私が言葉に詰まる度、ラブはそう言ってくれる。 ひょっとしたらラブも聞きたくないのかも知れない。 そんな都合の良い思いが頭を掠める。 さっきのラブの言葉も相まって、ますます私の口は重くなる。 『せつなが言いたくない事は、言わなくていいんだよ。』 こんな事になってまで、ラブに甘えている。すべて話そう、そう決心したのに。 抱き締められ、胸の中で甘やかしてくれるラブにすがりついている。 「……困ったコだね、せつなは…。」 不意に、ぎゅっと私を抱いていたラブの腕に力がこもる。 「あのね、せつな。他所で辛い事があったらね、 ただ泣きながら帰ってくればいいの。」 そしたら抱っこして慰めてあげるんだから。 そう言って、ラブはますます力を入れてくる。 まるで、私を自分の中に包み込んでしまおうとするように。 まるで子供をたしなめるような口調のラブに、私は少し苦笑したくなる。 「……なんだか私、小さな子供みたいね……。」 「小さいコだよ!夏に生まれ変わったばっかなんだから。」 赤ちゃんみたいなもの!ラブはそう言い切って私の髪をクシャクシャに掻き回す。 まぁ、確かにこちらの常識は知らないし、人付き合いも下手だし…… でも、ハッキリそう言われてしまうと…… 「うん、何か分かった。これが足りなかったんだよ!あたし達には!」 ラブは唐突とも思える言葉で私の物思いを遮る。 何が?と問う間もなく…… ぎゅう…とまたラブが抱き締めてくる。 「……気持ち良い?」 戸惑いながらも、私は素直に頷く。 「他には?」 温かい。良い匂い。安心する。 私は思い付くままに言葉を並べる。それから…… 「……ラブが、大好き……。」 「うん!あたしもー!」 にゃはは、といつもの笑い声を上げ、ラブがぐりぐりと頬擦りしてくる。 「せつなにはね、抱っこが足りなかったんだよ。」 「………抱っこ…?」 「そう!」 ラブが私の頬を両手で挟んで見詰めてくる。 「だから、あたしはせつなに信じてもらえなかったんだよ……。」 意味が、分からない。 ラブは何を言ってるの? 私そんな事、考えた事もない。 私がラブを信じない、そんなの想像すら出来ないくらいなのに。 慌て反論しようとする私の唇をラブが人差し指で押さえる。 「あたしは、せつなを安心させてあげられてなかったもんね。」 本当に、ラブは何を言ってるの? 私がラブを信じてない?安心してない?どうして? 愛情も、安心も溢れるくらいもらってる。 現に今だって、こうして抱き締めてもらってる。 裏切りの言い訳一つ、まともに出来ない。 ラブの優しさに甘えて、罪の告白すら中途半端にしか出来ない。 臆病で脆弱で、傷付けたラブに甘える事しか出来ない私なのに。 「せつな、怖かったんでしょ?あたしに嫌われるかも……って。」 だから、何も言えなかったんだよね? 「傷付いてるせつなを見て、あたしが嫌ったりすると思った?」 それが、どんな原因でも。 「いーっぱい抱っこされて、愛されてる自信のある子はね、外で泣かされて 帰って来てもね、また抱き締めてもらえばすぐに泣き止めるんだよ。」 だから、あたしはせつなの心をもっと抱き締めてあげなきゃいけなかったんだよ。 「ごめんね、せつな。」 ラブが見つめる。胸の奥がきゅっと苦しくなる。 どうしてラブが謝るの?ラブは何も悪くないのに。 それなのに、私は、もっと愛してもらえるの?どして? どうして、ラブはこんなに私なんかを大事にしてくれるんだろう。 「せつなは、もっと欲張りになってもいいくらいなんだよ?」 ちっちゃい子がママに抱っこせがんだって誰も笑わないでしょ? もっともっと我が儘言ってもいいんだよ。 ラブはあくまでも私を小さな子供として話を進めようとする。 私は悪くない……。そう言ってくれてる。 小さな子供が些細な失敗を隠す為に、見え見えの嘘をつく。 その嘘を誤魔化す為にまた嘘を重ねる。 でも結局、小さな子供はそんな自分に耐えきれなくて、最後は泣いて お母さんに謝る事になる。 だって、お母さんはいつだって許してくれるから……。 「ラブは……私のお母さんなの?」 「まっさかぁ!あたし達はラブラブの恋人同士でしょー?」 「だから抱っこ以外も色々しちゃうんだもん。」 ラブは私を抱き締めたまま、チュッと唇をついばんでくる。 「………んっ……」 優しく柔らかな感触に、思わず甘えた吐息が漏れる。 「コラコラ、そんな声出さないの。……続き、したくなっちゃうでしょ……?」 「………しても、いいのに……。」 ラブは困った顔してる。ホントに私は構わないのに……。 ラブさえ嫌じゃなければ……。 「あのねぇ、今までがおかしかったの。具合の悪いせつなに色々してた あたしは、すごーく悪い子だったの。だから今、反省中。 せつなが元気になるまで我慢しなくちゃダメなの!」 間違ったり、失敗するのは仕方ない事。 それに気付いたら、反省して、やり直す。 それしかないよね? 「今せつなに必要なのは、ラブさんの愛情たっぷりの抱っこ! それに、たくさん眠る事だよ。」 ラブの優しい声。温かい手。柔らかく、包んでくれるぬくもり。 「……はい…。」 「うん、いいお返事です。」 幸せだ……と感じる。 もう二度と戻れない。そう思っていた場所は、以前よりも優しい場所になって 私を迎えてくれた。 まるで羊水にくるまれた胎児のように、安らかな微睡みに誘われる。 うつらうつらと暖かい闇に意識を持って行かれそうになる中、 一人の面影がちらつく。 (………祈里…………) 彼女はまだ、冷たい闇で一人うずくまっているのだろうか。 どうすれば、彼女にも安らかな微睡みが訪れるのか……。 ラブのぬくもりに包まれて、せつなは長く忘れていた深い眠りの中に漂っていった。 4-590へ
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第9話 心まで抱き締めて その夜、ラブは、本当に大急ぎで夕飯とお風呂を済ませて来てくれたみたいだ。 まだ髪が少し湿ってる。 ベッドに潜り込み、私に手を伸ばして来る。 反射的に、少し身を引いてしまった。 「今日は、何もしないよ…。」 ラブは少し苦笑しながら私を胸に抱き込み、宥めるように背中をさすってくれる。 額に唇を寄せ、指が優しく髪を梳き、頬や肩を滑っていく。 胸いっぱいにラブの匂いを吸い込む。溜め息が漏れ、また涙が出そうになる。 あんまり泣いてばかりだと、ラブが困るのに。 きっと私は、ずっと、こんなふうにしてもらいたかったんだ。 ただ、優しく抱き締め、撫でてもらう。 何もかも包み込まれる、温かく、幸せな時間。 あの日、祈里との関係が始まってしまった日。 私が正直に話せば、ラブはこんなふうに抱き締めてくれたんだろうか。 ラブの胸に顔を埋めながら、私はポツポツと今までの事を話す。 いざ言葉を紡ぎ出すと、話せる事はそんなに多くない、と言うことに気づく。 ある切っ掛けで祈里と体の関係になってしまった事。 それ以降もずるずると会い続けていた事。 もう会わないと決めて、今日、そう祈里に告げた事。 それだけ。 恐らく、ラブが一番知りたいであろう『切っ掛け』、については、 話そうとすると舌が強張ってしまう。 隠したい訳ではない。 ただ………、どう言っていいかわからない。 事実をそのまま話す。それが一番いいのだろう。 でもそうすると、どうしても祈里を責めるような言い方になってしまう気がするのだ。 「無理しなくていいよ……。」 私が言葉に詰まる度、ラブはそう言ってくれる。 ひょっとしたらラブも聞きたくないのかも知れない。 そんな都合の良い思いが頭を掠める。 さっきのラブの言葉も相まって、ますます私の口は重くなる。 『せつなが言いたくない事は、言わなくていいんだよ。』 こんな事になってまで、ラブに甘えている。すべて話そう、そう決心したのに。 抱き締められ、胸の中で甘やかしてくれるラブにすがりついている。 「……困ったコだね、せつなは…。」 不意に、ぎゅっと私を抱いていたラブの腕に力がこもる。 「あのね、せつな。他所で辛い事があったらね、 ただ泣きながら帰ってくればいいの。」 そしたら抱っこして慰めてあげるんだから。 そう言って、ラブはますます力を入れてくる。 まるで、私を自分の中に包み込んでしまおうとするように。 まるで子供をたしなめるような口調のラブに、私は少し苦笑したくなる。 「……なんだか私、小さな子供みたいね……。」 「小さいコだよ!夏に生まれ変わったばっかなんだから。」 赤ちゃんみたいなもの!ラブはそう言い切って私の髪をクシャクシャに掻き回す。 まぁ、確かにこちらの常識は知らないし、人付き合いも下手だし…… でも、ハッキリそう言われてしまうと…… 「うん、何か分かった。これが足りなかったんだよ!あたし達には!」 ラブは唐突とも思える言葉で私の物思いを遮る。 何が?と問う間もなく…… ぎゅう…とまたラブが抱き締めてくる。 「……気持ち良い?」 戸惑いながらも、私は素直に頷く。 「他には?」 温かい。良い匂い。安心する。 私は思い付くままに言葉を並べる。それから…… 「……ラブが、大好き……。」 「うん!あたしもー!」 にゃはは、といつもの笑い声を上げ、ラブがぐりぐりと頬擦りしてくる。 「せつなにはね、抱っこが足りなかったんだよ。」 「………抱っこ…?」 「そう!」 ラブが私の頬を両手で挟んで見詰めてくる。 「だから、あたしはせつなに信じてもらえなかったんだよ……。」 意味が、分からない。 ラブは何を言ってるの? 私そんな事、考えた事もない。 私がラブを信じない、そんなの想像すら出来ないくらいなのに。 慌て反論しようとする私の唇をラブが人差し指で押さえる。 「あたしは、せつなを安心させてあげられてなかったもんね。」 本当に、ラブは何を言ってるの? 私がラブを信じてない?安心してない?どうして? 愛情も、安心も溢れるくらいもらってる。 現に今だって、こうして抱き締めてもらってる。 裏切りの言い訳一つ、まともに出来ない。 ラブの優しさに甘えて、罪の告白すら中途半端にしか出来ない。 臆病で脆弱で、傷付けたラブに甘える事しか出来ない私なのに。 「せつな、怖かったんでしょ?あたしに嫌われるかも……って。」 だから、何も言えなかったんだよね? 「傷付いてるせつなを見て、あたしが嫌ったりすると思った?」 それが、どんな原因でも。 「いーっぱい抱っこされて、愛されてる自信のある子はね、外で泣かされて 帰って来てもね、また抱き締めてもらえばすぐに泣き止めるんだよ。」 だから、あたしはせつなの心をもっと抱き締めてあげなきゃいけなかったんだよ。 「ごめんね、せつな。」 ラブが見つめる。胸の奥がきゅっと苦しくなる。 どうしてラブが謝るの?ラブは何も悪くないのに。 それなのに、私は、もっと愛してもらえるの?どして? どうして、ラブはこんなに私なんかを大事にしてくれるんだろう。 「せつなは、もっと欲張りになってもいいくらいなんだよ?」 ちっちゃい子がママに抱っこせがんだって誰も笑わないでしょ? もっともっと我が儘言ってもいいんだよ。 ラブはあくまでも私を小さな子供として話を進めようとする。 私は悪くない……。そう言ってくれてる。 小さな子供が些細な失敗を隠す為に、見え見えの嘘をつく。 その嘘を誤魔化す為にまた嘘を重ねる。 でも結局、小さな子供はそんな自分に耐えきれなくて、最後は泣いて お母さんに謝る事になる。 だって、お母さんはいつだって許してくれるから……。 「ラブは……私のお母さんなの?」 「まっさかぁ!あたし達はラブラブの恋人同士でしょー?」 「だから抱っこ以外も色々しちゃうんだもん。」 ラブは私を抱き締めたまま、チュッと唇をついばんでくる。 「………んっ……」 優しく柔らかな感触に、思わず甘えた吐息が漏れる。 「コラコラ、そんな声出さないの。……続き、したくなっちゃうでしょ……?」 「………しても、いいのに……。」 ラブは困った顔してる。ホントに私は構わないのに……。 ラブさえ嫌じゃなければ……。 「あのねぇ、今までがおかしかったの。具合の悪いせつなに色々してた あたしは、すごーく悪い子だったの。だから今、反省中。 せつなが元気になるまで我慢しなくちゃダメなの!」 間違ったり、失敗するのは仕方ない事。 それに気付いたら、反省して、やり直す。 それしかないよね? 「今せつなに必要なのは、ラブさんの愛情たっぷりの抱っこ! それに、たくさん眠る事だよ。」 ラブの優しい声。温かい手。柔らかく、包んでくれるぬくもり。 「……はい…。」 「うん、いいお返事です。」 幸せだ……と感じる。 もう二度と戻れない。そう思っていた場所は、以前よりも優しい場所になって 私を迎えてくれた。 まるで羊水にくるまれた胎児のように、安らかな微睡みに誘われる。 うつらうつらと暖かい闇に意識を持って行かれそうになる中、 一人の面影がちらつく。 (………祈里…………) 彼女はまだ、冷たい闇で一人うずくまっているのだろうか。 どうすれば、彼女にも安らかな微睡みが訪れるのか……。 ラブのぬくもりに包まれて、せつなは長く忘れていた深い眠りの中に漂っていった。 第10話 目隠しの気持ちへ続く
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ねぎぼうの140文字SS【2】 1.ラブせつで『見てないけど』/ねぎぼう 「美希、ラブ見なかった?」 「見てないけど」 「ほんと何処に……」 せつなが去っていく。 「ごめん、美希たん!」 「ラブ、一体何したの?」 「ニンジンわざと買い忘れたのがバレちゃって」 「それはラブが悪い」 「そんなあ……」 「ちゃんと謝ること!」 「はぁ~い」 (ナントカは犬も喰わぬ、かしら?) 2.ラブせつで『幸福な朝』/ねぎぼう 「なんだこのオムレツの赤いのは」 「皆まで言わせないで。貴方達の顔よ!でもやはり難しいわね」 「そう言えばあの世界にはコーヒーの上に絵を描くラテアートというのがあってね……」 「でもお前みたいに山ほど角砂糖入れてたら絵も何もないだろ?」…… ありがとう、ラブ。 今日も幸福な朝だわ。 3.ラブせつで『手だけつないで』/ねぎぼう 「みんなで……ゆうごはーん」 ラブの歌声にせつながそっと応える。 手だけつないでいても伝わってくる温かさそして幸せが、 歌うことを知らなかったせつなに歌声をも授けたかのようであった。 二人の少女は星空の下の丘を駆けていく。 つなぐその手は互いにつかみ取った幸せのクローバー。 4.ラブせつで『美しい終わり方』/ねぎぼう (あのまま寿命が終わるのを座して待つくらいなら、 貴女と戦っていっそ倒される方がまだ美しい終わり方だと思ってたわ。 なのに、貴女といるとやはり私の中で何かがおかしくなっていったの。 あの清々しさはこれで思い残すことはないという気持ちの筈だったのに……) せつなの中に生きるイースの戸惑い 5.ラブせつで『ありふれた日常の中の幸せ』/ねぎぼう 「今日の献立酢鳥だね」 「酢鳥だわ」 「ピーマン入ってるよ」 「ニンジンもね」 「残しちゃおっかなあ……」 「ダメよ、私、食べるわ」 「それじゃあたしも」 (忍耐の食事) 「デザートはプリンだよ!」 「ええ」 (一匙口にする) 「プリンおいしい~」 ありふれた日常の中の幸せを感じる三学期の給食タイム。 6.ラブせつで『ゲームを始めようか』/ねぎぼう 二人でお小遣いをためて開店前から並んでゲットした 人気のダンスゲームソフト。 「せつな、ゲームを始めようか」 ところが電源をオンしてもうんともすんとも言わない。 「ピーチはんそれ最近調子悪いんや、叩いてみ」 タルトとラブが叩いてみるも点かない。 「精一杯頑張るわ!」 せつなの一撃に 「あ……」 7.ラブせつで『受け止めてくれるのはあなただけ』/ねぎぼう もう受け止めてくれるのはあなただけじゃなかったのね。 独りだと思い込んでた私を、 最後は一人で始末をつけるしかないと思ってた私を 皆が受け止めてくれていたの。 でもね、信じて飛び込んで行くことを、手を伸ばすことを 教えてくれたのはあなたよ。 受け止めてくれたラブの温もりを忘れない、永遠に。 8.ラブせつで『若いときには無茶をしとけ』/ねぎぼう 「カオルちゃん、結婚したい人がいるんだ…… でも今の日本では出来ないの」 「なら、出来る国の国籍取っちゃえば?」 「それに今はこの世界にいないの」 「その世界に行ったらいいよ。杏より梅が安しってね」 「……うん、行ってくる!」 ラブが駆けていく。 「若いときには無茶をしとけ、だな。グハッ!」 9.ラブせつで『言えない我儘』/ねぎぼう 酢豚に入ったピーマンを見つけ、 遠慮がちに目でお願いするせつな。 「ラブ、それ苦手……」 もう一人の娘が見せる数少ない駄目さが今は愛おしい。 「せつなったら、もうしょうがないなあ。今日だけ……だよ」 滲んで見えない緑色を口に入れる。 最初で最後のいえない我儘は苦くて、しょっぱい味がした。 10.ラブせつで『目を閉じて、三秒(その1)』/ねぎぼう 「ねえ、せつな。ラブちゃんが最後におまじないしてあげる」 「おまじない?」 「目を開けているとできないんだよ」 目を閉じて、三秒…… 唇に温かさが伝わる。 「もう少し目をつぶってて」 涙は見せない。 笑顔で見送ると決めたんだから。 「これで大丈夫だよ」 目の周りをやや赤くした天使が微笑んだ。
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耳に心地好く響くせつなの声。 それは、まるで心を内側から羽毛で撫でられているよう。 美希を優しいと言うせつな。 たぶん、面と向かって美希をそんな風に評したのは せつなが初めてではないかと思った。 優しく無い、とは今までも思われてはいないとは思う。 しかし、それは美希を表す単語としては、必ずしも上位にある言葉ではない。 上に来るのは、しっかりしてる、大人びてる、気が強い。 親しい相手には、案外抜けてる、なんて言われる事もある。 しかし、情には厚い方だと自分で思っていたりもするが、 『優しい』なんて丸く柔らかいイメージは持たれていない。 他ならぬ、美希自身がそう振る舞って来たのだから。 そんな言葉が似合うのは、いつもふんわりとした微笑みを浮かべている祈里。 いつもお節介なくらいに他人の為に走り回っているラブだ。 美希の役回りは叱ったり励ましたり。 どちらかと言えば喝を入れてしょげた相手を奮い起たせる方だ。 上手くは行かない時もあったけれど。 「アタシは優しくなんかない。せつなはあんまり優しくされた事ないから、 アタシなんかでも優しく見えるだけよ」 「…それも随分な言い方よね。私の感じ方なんて当てにならない?」 「でもっ、それは、せつなの見方が変わっただけでしょ? アタシのやった事は何も変わってない!」 「それのどこがいけないの?」 「だって!そんなのっ……」 「美希だってそうでしょ?」 「……?!」 「私だって、変わってないわ。美希の見方が変わっただけ」 「…………」 「今の私を見てるから、昔の私も引っくるめて、親友だって言ってくれる。違う?」 「…じゃあ、せつなは?なんでアタシを親友だって言うの? アタシ、せつなにそんなに好かれるような事、した?」 言ってて気が付いた。 本当にそうだ。自分は、親友だと言いながらせつなの為に何かした事があっただろうか。 口だけだ。一人にはしないなんて。 いつだって、せつなの為に必死になっていたのはラブだけだ。 自分はラブに引きずられていただけ。 ラブがこんなにも想ってるんだから、そう、美希はラブの為に走り回っていただけ。 せつなの為では無かった。 それを思うと、たとえ傷付け汚しても、剥き出しの想いをぶつけた 祈里の方が真摯にせつなに向き合っていたようにすら感じる。 結局、自分の事しか考えて無かった。 居心地の良かった棲みかを追われる事に脅えていただけだった。 これ以上せつなに傷付いて欲しくない、そう言いながら、 四人でいるのを望んでいるのは自分自身だとせつなの口から聞かされ、 その事に膝が砕け、崩れ落ちたくなるくらいに安堵していた。 「今、こうして、一緒にいてくれてるわ」 止めどなく溢れる美希の涙を指先で拭いながら、せつなは一語一語を はっきりと句切るように美希に告げる。 「自分が辛い時に、一緒にいる相手に私を選んでくれた。 そんな風に感じるのって自惚れてるかしら…?」 「………せつな…」 「いつだって、美希は必死に考えてくれてた。どうすれば、みんなが 笑って過ごせるのか。勝手にしろってそっぽを向く事だって出来たのに」 半ば呆然とせつなを見つめる。 せつなの中の美希はどんな姿なのか、未だに美希には掴めない。 だけど、優しい、と言う評価に少しだけ意地悪を言ってみたくなった。 今まで美希に付いてまわった評価では、優しい、と言うのはあまり記憶に無いから。 「ねえ、せつな。せつなは知らないかもだけど、こっちの世界では 『優しい』って、結構ビミョーな評価なのよ?」 「どう言う意味?」 「あのね、毒にも薬にもならないって言うか、いい人だけど 他に魅力が無いって言うか…」 「…………」 「なんて言うの?他に誉め言葉が思い浮かばない時に使う、 ある意味便利で無難な言葉だったり、酷い時だと優柔不断を 紙一重でマイルドにした感じ?…」 「………こちらの言葉の使い方って複雑なのね……」 せつなは呆れたようにため息をつき、改めて真っ直ぐに美希に向き合う。 至近距離で見つめ合っても、およそ欠点など見つけられない完璧な笑顔。 美希はぼうっとしたまま、今の自分はかなり間抜けな顔を晒しているのに、 そんなに可愛く微笑むなんて不公平だ、などと緊張感の無い事を 思わず考えてしまった。 「いい?美希は優しいわ。少なくとも、私はこれから先、美希以外の人に 『優しい』って言う表現は使いたくない」 「………」 「そのくらい、美希は優しい人だって思ってる」 同じくらい、寂しがり屋だとも思ったけど。 そう言いながら、美希の濡れた頬に唇を寄せた。 もう、駄目だ………。 美希はせつなにしがみ付き、声を上げて泣いた。 物心付いてから、声が枯れそうな程、こんなにも泣いた記憶は無いくらい 大きな声で泣いた。 せつなの言う、優しい人。それがどんな意味合いを持つのか。 美希はせつなに意識して優しくした覚えは無かった。 ただ日々せつなを見つめ、共に過ごす内に芽生えた愛しさを 隠す事はしなかっただけだ。 ラブはせつなに出逢った瞬間から、抗い難い運命の様な物を感じたのだろう。 祈里は自分でも気が付かない内にせつなに魅入られ、堕ちて行った。 自分はどうだったのだろう。 最初は、ラブの後をちょこちょこと控え目について行くだけだったせつな。 少しずれた世間知らずな言動や、それとは裏腹な時には突拍子も無い程の行動力。 空気は読まない、お愛想代わりの世間話すら出来ない。 美希は手のかかる妹分がまた一人増えたようなつもりでいた。 それがいつの間にか、こちらが頼る場面すら増えてきた。 妹扱いしようにも、せつなの方が美希を『お姉さん』とは微塵も感じていない。 それが最初は居心地が悪くて、でも不思議と嫌ではなくて。 せつな相手には何も飾る必要がない。 と、言うより、飾った所でせつなは美希が気取っていようがすましていようが、 逆に子供のように拗ねたりしても気にもしない。 いつしか、せつなとは一番目線が近いような気すらして、 それがなんだか嬉しかった。 美希の脳裏にふとした思いつきが浮かぶ。 試してみてもいいだろうか。しかし、単なる思いつきで頼むのも失礼な気もする。 それに、物は試し…が変な方向に転がったら。 凄まじい勢いで色んな思いが駆け巡る。 もう、せつなには何でも言えるし、せつなも何を美希が言っても 驚かないだろう。 ここまでさらけ出してしまったら、もう取り繕う箇所は殆んど無い。 しゃくり上げる胸を落ち着かせ、何とか息を整える。 大きく深呼吸して、下手をしたら多大な誤解を招き兼ねない一言を口にした。 「ねえ、せつな……キスしても、いい…?」 ようやく涙が落ち着いて、やっと口に出した言葉がこれだ。 さすがにまともに顔を見る勇気は持てなかった。 せつなも咄嗟に反応を返せないのか、無言のまま。 「いいかな…?」 おずおずと顔を上げ、上目使いに何とか視線を合わせる。 せつなは、しばらく美希の表情を窺った後、驚くでも茶化すでもなく、コクリと頷いた。 目を閉じ、軽く顎を上げる。 美希の口付けを待っているのだ、と理解し、自分で言っておきながら 美希は微かにたじろぐ。 ゴクリと喉を鳴らし、何とか手の震えを抑え、せつなの肩に両手を添える。 濡れた唇が軽く触れる。 ビリッと電気が走り、髪の毛も含めて全身の毛が逆立った気がした。 信じられないくらいの柔らかさ。心臓が跳ね上がる。 そして少し躊躇った後、しっかりと唇を押し付ける。 蕩けそうな感触。 こんなに柔らかいものに触れたのは生まれて初めてだと思った。 どこまでが自分の唇で、どこまでがせつなの唇なのか分からなくなる。 頭の芯が熱い。 逃げ出したいような、いつまでもこうしていたいような。 そして、物凄くドキドキしているのに、やっぱり『違う』と感じる。 この鼓動は胸の高鳴りとは別物だと、頭のどこかが言っている。 早鐘を打つ胸は、緊張と、こんな事をしてせつなにどう思われるだろう、 と言う不安。 少なくとも、もっと先に進みたい、もっと触れたくてもどかしい。 そんな欲望は微塵も涌いて来ない。 甘い匂いと柔らかな感触には、うっとりといつまでも 酔い痴れてしまいそうな心地好さはある。 でも、それだけだ。 「……どう、だった…?」 触れていたのは、ほんの数秒だろう。 それでも、唇を離すまでは時間が止まっているようだった。 温もりと柔らかさがすっと遠退くのが名残惜しいような、 ホッとしたような。 離れた瞬間から夢か幻だと言われても信じそうなくらい、 一瞬にして現実感がどこかへ行ってしまった。 「…しょっぱいわ……」 「あのねぇ…」 ペロリと唇を舐めたせつなが呟くように漏らす。 「美希、涙で顔中ベタベタなんだもの…」 「色気のカケラも無い感想ね……」 「美希に色気なんか感じてどうするのよ」 ぷっ…、と二人同時に吹き出した。 そのまま額をくっ付け、笑い合う。 「よかった……」 「何が…?」 「せつなにドキドキしちゃったら、どうしようかと思ったわ…」 「何よ、それ。実験?」 「そーよ、実験。やっぱりアタシには無理だわ」 「そんな事の為にわざわざ唇奪ったの?」 「何よ、奪ったって。合意の上じゃない、人聞きの悪い」 クスクスと笑いながら囁き合う。 馬鹿馬鹿しい、けれど、真剣な実験。 二人はこれからも親友。何があっても。 大好きで大切だけど、閉じ込めて一人占めしたいなんて思わない。一人占めしている誰かに嫉妬もしない。 だって、想い合う場所が違うから。 運命の人でも、欠けた魂の片割れでもない。 だけど、かけがえの無い、一番の友達。 「美希が好きよ。大好き。何度でも言うわ」 「…せつな」 「ラブみたいには想えない。それに、ラブと美希を比べたら… 比べたくなんかないし、比べちゃいけないんだろうけど、 やっぱり比べたら、私はラブが大切って答える」 「………うん」 「それでも、やっぱり美希の事が大好き。大好きで、美希にも、私を好きでいて欲しい…」 「うん……」 それでいい。ううん、それがいい。 美希も、せつなから欲しいのは、ラブに向けているような愛情ではない。 それがはっきり分かったから。 出逢った瞬間、恋に落ちる。何もかも振り捨ててでも、たった一人の 人を求めずにはいられない。 そんな相手に巡り会える人なんて滅多にいないのだから。 多くの恋人達は、いくつもの出合いと別れを繰返し、結ばれた後も、 本当に自分の相手はこの人なんだろうか…? そんな不安を抱えているのも珍しくはないのだろう。 永遠の愛を誓った後でさえ、気持ちが変わる。 美希の両親がそうだったように。 せつなの中の美希。せつなの親友。誰よりも優しい人。 それが本当に自分の姿なのか。 たぶん、せつなにとって美希がどう思うかはあまり関係ないのだ。 ただ、せつなは今目の前にいる美希を抱き締めてくれている。 初めて出来た、無二の親友として。 人によって、その心に住み着く人間の姿は違う。 しかし、その人そのものは何も変わらない。 月が日々姿を変え、満ち欠けしても、月である事が変わらないように。 月は太陽の光を受けて輝くだけの、冷たい石。 近くで見れば、命の影すら無いクレーターだらけの暗い塊。 しかし、人が月を思い浮かべる時、それは夜空に輝く豊かな光を湛えた姿だろう。 月が自分はただの石くれだと言ったところで、地表から眺める者の瞳には 眩い程に美しく、魅惑的に映っている。 それは、月が自分では輝けない事実を知っていても変わらない。 そんな事は、見上げる月の美しさを損ねるものではないと分かっている。 「美希、一つだけ聞かせて…」 「なあに?」 「……私に、会えて良かったと思う…?」 「…せつな」 「私、ほんの少しでも、美希の幸せの一部になれてる?」 「せつなは……?」 「………?」 「せつなはどうなの?アタシに会えて良かった?」 「当たり前じゃない!」 「だったら、そんな事聞くまでもないわよ!」 途端に、せつなはくしゃっと顔を歪めた。 その顔を見て美希は密かに安堵する。 ああ、やっぱり。せつなだって不安だったんだ。 美希の気持ちを受け止めようと、精一杯頑張ってくれてたんだ。 今度は美希がせつなの頭を胸に抱き込む。 あやすように髪を撫で、体を揺する。 「あなたに出会えてよかったわ」 本当に、本当に。 色んな事があって、これからもまだまだ色んな事が起こるだろう。 だけど、もう自分を嫌いにはならずに済みそうな気がしていた。 今までも、たった今も、出来る限りの事をやってきたと思うから。 せつなに、美希は優しい人だと言ってもらえた。 それで、自分のしてきた事は無駄では無かったと感じられたから。 「アタシ、このままでいいわよね。今のまんまのアタシで」 「うん…。このままの、美希でいて欲しいわ…」 「そうね。これから、変わる事もあるかも知れないけど、 中身はいつだってアタシのままよね」 「ええ……」 たぶん、次に祈里とラブに合うとき、二人は気まずい思いをしてるだろう。 だから、アタシから笑おう。 そうすれば、きっと二人もぎこちなくても笑顔を返してくれる。 アタシは変わらない。 祈里とラブの中のアタシだって、きっと変わってない。 ほんの幼い頃、三人並んで手を繋いでいたあの頃と変わらない自分達が まだ胸の中にいるはずだから。 そこにせつなが加わったって、幼馴染みの絆は変わらない。 そう、信じよう。 そして、せつなの温もりを抱き締めながら、改めて思う。 この子はかけがえの無い親友なんだと。 幼い頃を知らなくても、育った世界が違っても。 ラブや祈里にも話せない事も打ち明けられる、特別な存在だと。 結局、回り道しただけで行き着く場所は同じだった。 その回り道は辛くて、先が見えなくて、それでも、今まで知らなかった 様々な道を教えてくれた気がする。 大切な人は、やはり大切だった。失う事も、別れ別れになる事も考えられない。 そんな当たり前の、それでいて忘れてしまいがちな事実を確認できたから。 そして、せつなもきっとそうなのだと思いたかった。 ラブと祈里とせつな、この三人にしか分からない想い。それぞれの胸の内。 それを美希は窺い知る事は出来ない。 せつなが幼馴染み三人の歴史には過去に遡って入れないと知っているように。 だけどそれは、異なる二つの世界があり、お互いに重ならない訳ではない。 より大きな世界となって、美希もせつなもそこにいる。 その世界はこれからもどんどん変化し、広くなったり狭くなったり、 境界線がはっきりしたり、曖昧になったり。 そして行き来出来る場所がどれほど増えても、決して踏み込めない 場所があるだけだ。 満月の裏側が暗闇であるように。 そして、その暗闇は隠すものでも、怯えるものでも無く、当たり前に存在するものなのだ。 静かな闇は穏やかな安らぎを与えてくれるから。 黒ブキ38へ
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≪プリンセス号の中のとある一室≫ コンコン 「祈里、入ってもいいかしら?」 「ええ、もう着替え終わったから大丈夫よ。」 「外で待っててくれてもよかったのに。……ラブちゃん達は?」 「シフォンと一緒に遊んでるわ。」 「ねぇ祈里。」 「なぁに?せつなちゃん?」 「ほんとにどこも怪我してないのね。」 「ええ、大丈夫よ。」 私がそう言うとせつなちゃんは私の手をギュッと握った。 「よかった。」 「も~心配しすぎだよ、せつなちゃん。」 私は笑いながら答える。 「ごめんなさい。」 「えっ?」 私はせつなちゃんの突然の謝罪に驚いてしまった。 「本当は直ぐにでも駆けつけたかった……でも、ラブと美希だけじゃこの船は止められない…、 それにウエスターも何時仕掛けてくるか分からなかった…だから……だから…。」 …だから駆けつけることが出来なかった…ごめんなさい……とせつなちゃんは言いたいんだろうなぁ。 「だからごめんなさい?」 そう尋ねるとせつなちゃんは首を縦に振った。 う~ん、でもせつなちゃんが謝るようなことは全くないと思うんだけどなぁ……だって… 「謝らないで、せつなちゃん。」 「……私がソレワタ―セを倒せたのはせつなちゃんの……ううん、皆のおかげだもの。」 「えっ?」 今度はせつなちゃんが私の言葉に驚いている。 「多分あのソレワタ―セは外側が強化されてた分、中心部分が弱かったと思うの。」 「だから私がソレワタ―セを倒せたのはラブちゃん、美希ちゃん、それにせつなちゃんが外で この船を食い止めてくれていたおかげなの。だからねせつなちゃん……謝らないで。」 「祈里…。わかったわ……さっきのごめんなさいは取り消すわ。その代わり…。」 せつなちゃんが握っていた手を離した。 「ありがとう祈里。」 ふわりと温かい何かに包まれる。 「ソレワタ―セを倒してくれて……無事に戻って来てくれて。」 「せつなちゃん……。」 「……これなら受け取ってもらえるかしら。」 「ええ、もちろん。……ふふっ…それじゃあ私も……ありがとうせつなちゃん。」 「ソレワタ―セを食い止めてくれて……心配してくれて。」 「……と、当然よ。」 あっ、ちょっと照れてる。 「ふふっ。」 「ん?どうしたの祈里?」 「ううん、なんでもない。」 そう言って私はそっとせつなちゃんを抱きしめ返す。 照れてるせつなちゃんが可愛いかった…なんて言えない。 言ったらせつなちゃん、きっと離れちゃうもの。 そんなの駄目……だって今はまだせつなちゃんの温もりを感じていたいから。 END
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第15話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学文化祭(前編)――』 おお、ロミオ、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの? どうかお父様と縁を切り、ロミオという名をお捨てになって。 私の敵といっても、それはあなたのお名前だけ。モンタギューの名を捨てても、あなたはあなた。 モンタギューってなに? 手でもないし足でもないわ。 顔でもない。人間の身体の中のどの部分でもない。だから――別のお名前に。 そのお名前の代わりに、私の全てをお取りになっていただきたいの。 「はぁ~、こんな恋がしてみたいよね、せつな。運命すら超えた永遠の愛の物語。女の子の憧れだよ」 「そうね――私も憧れるわ。恋愛にじゃなくて、その生き方に」 「ええ~っ? あたしはその反対なんだけどな。ねえせつな、ラストはハッピーエンドに変えちゃおうよ!」 「だめよっ! ――そんなこと、しちゃいけないわ」 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学文化祭(前編)――』 涼しげな風が窓から入り込む。静かに迎える朝、最後に蝉の声を聞いたのはいつの日だったろうか。 高く澄み渡る空を、ひつじ雲がまだらに覆う。 静寂が心に影を落とす。なぜか物悲しくて、過ぎ去った記憶が思い出される季節。 そんな感傷に浸っていると、隣の部屋から大きなベルの音が鳴り響いた。 せつなはクスッと笑う。止めに行ってあげようと思う。幸せな眠りを破るのは、幸せな目覚めであってほしいから。 ラブならどんな風に感じるだろう? 新しい季節、秋の到来を―― 食欲の秋、実りの秋、スポーツの秋。こんなところだろうか? そうだ、学びの秋も加えてあげなくては。 そんな風に考えていたら、ずいぶんと気持ちが明るくなってきた。 弾む足取りでラブの部屋をノックする。今日から新学期の始まりだ! 久しぶりのクラスメイトとの語らい。活気に溢れ、和気藹々とした独特の空気。自由奔放で、それでいてどこか一体感があって。 せつなは、およそ寂しいなどという感覚からかけ離れた教室の雰囲気が大好きだった。 「何になるんだろう? 楽しみだね、せつな」 「楽しみって、ただのホームルームでしょ?」 「そっか、せつなは初めてなんだ。今日はね――」 「ラブ~! あなたも実行委員でしょ、早く、早く!」 本来なら退屈な雰囲気の漂う時間割、クラスメイトの瞳が一斉に輝く。 今年の文化祭は秋口の開催となる。特に三年生はその中心であり、最後の思い出作りの場でもあった。 一年生はテーマごとのクラス展示。二年生は催し物。ラブの時はお化け屋敷を作った。散々な目にあったらしいけど……。 花形の三年生は体育館を使ってのステージだ。集団ライブ・映画作成・創作ダンス・演劇など、様々な出し物が提案されていく。 「よし、では多数決の結果により、演劇『ロミオとジュリエット』とする。後は配役だが……」 「先生! 東さんがいいと思います!」 「賛成!」 「賛成!」 「賛成!」 ラブと共に進行を務める由美が目を輝かせて推薦する。『ロミオとジュリエット』の題目を提案したのも彼女だった。 学年の中でも群を抜いた美貌を誇るせつなは、クラスの人気者だ。 容姿だけではない。学力でもスポーツでも、あらゆる面において抜群の能力を誇った。 それでいて驕らず、誰とでも分け隔てなく接し、親切で世話焼きな一面もあった。 唯一欠点があるとすれば、清楚な雰囲気が高嶺の花を思わせて、まるで男子を寄せ付けないことだった。 由美は女子でありながらせつなの大ファンだ。恋に輝くせつなの姿を見たいと思い、ラブと組んで密かに計画していたのだ。 「待って! 私が演技なんて……。やったことがないわ」 「東さんなら大丈夫よ!」 「せつななら絶対似合うって!」 「じゃあ、相手役はラブがやって。これが条件よ」 「えぇ~! あたしが芝居とか無理だって! ぜったい、無理!」 「じゃあ、私もやらないわ」 「いいじゃない、ラブで。キスシーンとかあるし、どうせロミオ役も女子をあてるつもりだったんだから」 「確かに桃園なら、ロミオにはピッタリだよな」 「ちょっと! それ、どういう意味よ!」 ロミオの片想いの相手、ロザラインに由美。その他、配役が次々に割り振られていく。 役に当たらず、胸を撫で下ろす者。あるいはがっかりする者にも、別の仕事が割り振られる。 主に男子は大道具や小道具製作に回る。女子は衣装の作成。効果音やBGM、ナレーションなんかも重要な役どころだ。 「後は台本よね。これはわたしとラブでやろうか?」 「そうだね! ラストは変えちゃいたいんだ」 「ラブ、変えるって、何を?」 「このお話はね、最後がとても悲しいの。だからハッピーエンドにしようと思って」 「わかった。私も手伝うわ」 「ホント! ありがとう、東さん」 放課後の図書室。ラブと由美、そしてせつなは、顔を付き合わせて一冊の文庫を眺める。 提案はしたものの実際に採用されるとは思ってなかったので、二人とも物語の詳しい知識はなかった。 「呆れた、どんなお話かも知らないで決めちゃったの?」 「だって、代表的な恋愛物だし、大まかな話の流れなら知ってたし」 「ごめんね東さん。素人ばかりの演技になるから、なるべく有名なお話の方がわかりやすいと思ったの」 「これじゃあ台本どころじゃないわね。とにかく一度じっくり読んでからにしましょう」 「本は一冊しかないんだけど……」 「ラブと東さんは同じ家でしょ、借りて帰って。わたしは図書館に寄る予定があるから」 本格的な台本作りは明日からとして、その日は早く帰って本を読むことにした。 「はぁ~、由美に悪いことしちゃった」 「私たちのために図書館に行くことになったのよね。私が行っても良かったのに」 「そうじゃなくてね、由美って、自分がロミオ役をやりたかったんだ」 「由美が? もっと大人しいタイプだと思ってたわ。実行委員を名乗り出ただけでも驚きなのに」 「せつなとの思い出を作りたくてがんばったんだよ。これが最後の大きな行事になるからって」 「そうだったの……。東さんなんて呼ばれてるから嫌われてるのかと思ってたわ」 「それこそ控えめだからだよ。よく一緒にお昼してるじゃない」 「それは私がラブと一緒にいるからでしょ?」 「ちがうちがう、由美はせつなと一緒に食べたいんだよ」 今さら配役の変更は効かないだろう。それに、せつなと演じたいと思っているのは由美だけではない。 せつながラブを指名した時、クラスの男子生徒の間で確かな落胆のため息が零れたのだ。 だったら、せつなにできる精一杯とは―― 「わかった。ラブ――この劇を必ず成功させましょう!」 「うん、あたしもがんばる。そして、クラスみんなで幸せゲットだよ」 桃園家の夕ご飯。ラブはせつなと一緒に劇の主役に抜擢されたことを話す。 ラブは興奮気味で、せつなは少し恥ずかしそうに俯きながら。 「凄いじゃないか。二人の娘が揃って主役なんて僕も鼻が高いよ」 「楽しみね、ご近所みんな誘って観に行きましょう」 「うん! みんなでいっぱい練習するよ。台本もあたしたちで作るんだ」 「お芝居なんて初めてだけど、できる限りのことをやってみる」 「頑張りなさい、きっと素敵な思い出になるわ。二人にとっても、わたしたちにとっても」 コンコン せつなの部屋をラブがノックする。読み終えた本をラブが持ってきたのだ。 ウィリアム・シェイクスピア著『ロミオとジュリエット』 古い装丁、ボロボロとなったページ。きっと、大勢の生徒がこの本を読んで涙したんだろう。 せつなは大切そうに表紙を開いてページを捲りはじめた。 「せつなおはよう!」 「おはよう、ラブ」 「どうしたの? せつな、なんだか目が赤いよ」 「昨日、遅くまで本を読んでいたから……」 「何度も読んだの? あたしでも二時間はかからなかったんだけど」 「そうね、もう全部暗記しちゃったわ」 「暗記って……」 文化祭まで後一ヶ月足らず。台本が完成してから本格的な準備がはじまる。 ラブ、由美、せつなは放課後に図書室で待ち合わせた。 「あたしね、やっぱりこのままじゃ悲しすぎると思うの。パッピーエンドに変えちゃおうよ!」 「そうね、じゃあジュリエットの計画を成功させて駆け落ちさせちゃおうか?」 「――待って! ダメよ、そんなことしちゃいけないわ!」 「せつな、これは劇だからアレンジしてもいいんだよ。隣のクラスなんて一寸法師が桃太郎と一緒に鬼退治するらしいし」 「クスッ、それは楽しそうね」 「そうじゃないの。このお話は、そんな風に軽く扱ってはいけないわ!」 「せつな……」 「わかった、原作のままでやりましょう。それでいいわね? ラブ」 「うん、せつながどうしてもって言うなら反対はしないよ」 「ごめんなさい。由美もありがとう」 「それじゃ始めよっか。今日、明日くらいで目処をつけて練習に入りたいもの」 タイトルと登場人物、上演時間を記入。時間帯ごとに場面を分けて物語の流れを決める。 重要シーンの選択からして大変だった。小説全てを再現していてはいくら時間があっても足りない。 ナレーションや、舞台の入れ替え、殺陣に使う時間も計算しなければならない。その上で登場人物ごとにセリフを落とし込んでいく。 「どうしよう……。こんなに大変だとは思わなかったわ。間に合うかな?」 「あたしも簡単に考えてたよ……。時間を決めてやるのって難しいんだね」 「私にやらせて! 家に帰って続きを考えてみる。それを見てもらうから」 「無理しないでね、東さん」 「あたしもせつなを手伝うよ!」 「期待してないわよ。どうせ寝ちゃうんでしょ」 せつなは家に帰ってから、すぐに部屋に閉じこもって台本に取りかかった。 食事の時に一度降りてきたきりで、食後のお茶も断って二階に上がっていった。 ラブとあゆみと圭太郎が残される。団欒の時間をとても大切にするせつなにしては、大変珍しいことだった。 「せっちゃんどうしたのかしら? 食事もそこそこで部屋に戻っちゃうなんて」 「せつなは、文化祭の劇の台本を作ってるの」 「そうだったの。で、ラブの浮かない表情の原因は何かしら?」 「たはは、やっぱりバレちゃうか。あたしは劇をハッピーエンドにしたかったの。だけど、せつなが……」 「せっちゃんは真面目だからなあ……。原作者の気持ちを大切にしたかったのかもしれないな」 「でも、たとえお芝居でも最後は幸せをゲットしたいよ。なんで悲劇なんてあるのかな?」 「どうしてかなあ……。悲劇の方が心に残るのは確かだと思うが」 「ねえラブ。悲しい結末に終わったとしても、その感動は忘れられない記憶として幸せの一部になるんじゃないかしら」 「わかってる。でもせつなにとって最初で最後の文化祭だから、なるべく楽しい思い出にしてあげたかったの」 「僕は演劇にも文学にも明るくはないが、せっちゃんの真剣な気持ちは伝わってくる。きっと良い思い出になるさ」 「うん、そうだよね。ありがとう、おとうさん、おかあさん」 その日の夜遅くまでせつなの部屋には電気が付いていた。壁越しに、セリフを音読する声や立ち回りの足音なんかも聞こえてくる。 セリフにかかる時間と、セリフとセリフの間。立ち回りの実際の所要時間を計っているのだろう。 手伝いに行こうかと思ったけど、止めることにした。返って邪魔になるような気がしたからだ。 結局せつなは何時に寝たのか、途中で眠ってしまったラブには知ることができなかった。 放課後、外せない用事や部活がある者を除いたクラスメイトが集った。 ラブと由美が、しっかりとした作りの冊子を配っていく。 その台本は三十ページにも及び、セリフだけじゃなく、役者の立ち位置や振舞い方までもが詳細に書き込まれていた。 また、ナレーションの文面、照明や音響の指示、舞台の入れ替えのタイミングまでフォローされていた。 「実は、台本はほとんど東さんが一人で作ってくれたの」 「初めてで、上手くできてるか自信がないの。やっていく中で不都合なところは直していくわ」 「それじゃあ、さっそく練習いってみようよ!」 『お~~!!』 花の都のヴェローナに、勢威を振るう二つの名門。モンタギューとキャピュレット。 古き恨みが今もまた、人々の手を血に染める。 かかる仇より生まれたる、不幸な星の恋人よ。 両家に絡む宿怨に、呪われたる運命か。 憐れに果てる若者よ。愛児の非業に迷い冷め、互いの手と手は繋がれる。 宿世つたなき恋の果て、仔細をこれより語りましょう。 ロミオとジュリエットの儚き恋の物語、これより、はじまり! はじまり~! 「おお、わが友ベンヴォーリオ。僕は恋に落ちている。相手は美人だ、この上もないほどに! しかし、処女神ダイアナの加護があり、どんな誘いも受け入れてもらえない。ゆえに僕はもう、生ける屍も同然なのだ」 「ロザラインか、彼女のことは忘れるんだ。恋から冷める妙薬を授けよう。キャピュレット家で開催される宴に参加するのだ。 仮面舞踏会ならモンタギューが混じっても平気だろう。そこで彼女をある女性と比べるがいい。白鳥と思っていた人は、実は家鴨だったと気付くだろう」 「行ってやろうじゃないか、ベンヴォーリオ。ただし、そんな挑発に乗せられたわけじゃない。麗しきロザラインの美貌を目にするためにさ」 ロミオ役のラブが、ロザラインに片想いして愛の言葉を詠う。ことごとく相手にされず、悲しみに暮れる。 ロミオの友人、ベンヴォーリオ役の子との語らい。彼の計らいで出席することになった、宿敵キャピュレット家の仮面舞踏会。 ロミオの運命の恋人、ジュリエットとの出会いの場であった。 「ストップ! ラブ、いくらなんでも棒読みしすぎよ。ロミオの情熱を表現するシーンなんだから」 「そうは言っても難しいよ、由美。セリフ長すぎだし……」 「これでもずいぶん短くしたのよ。原文はこの数倍あるんだから」 「読み方以前につかえないようにしないとな。桃園はセリフを全部覚えるのが先だよな」 「それこそ無理だって! あたしのセリフ集めただけで何ページになると思ってるのよ~」 「まあ、次の場面いってみましょう」 キャピュレットが一大宴会を催す。ヴェローナでも評判の美人はみな出席し、モンタギュー家の者でさえなければ誰でも歓迎された。 そう、モンタギュー家の者でさえなければ……。 「おお! 姫よ、あなたのお名前をどうか教えてください。天上の光よ! 至高の宝石よ! 日々の営みには麗しすぎて、この世のものたるにはあまりにも貴い。 艶やかに咲き誇る花々も、幻想の世界に住まう妖精も、彼女の前には道端の石ころに等しい。 僕の愚かさのなんたることか! 今ようやく本当の恋を知ったのだ。なぜなら、真の美しさを目にするのは今宵が初めてなのだから」 ロミオはジュリエットの姿を遠目で見ただけで激しい恋に落ちる。ロザラインへの片想いも、その瞬間から遠い過去の思い出となった。 浮気性と責めるなかれ。それまでの彼は、ジュリエットの存在を知らないままに生きてきたのだから。 身元を隠した仮面舞踏会。こっそり楽しむはずが、ジュリエットの美しさに魅せられて思わず声を発してしまう。 正体を見抜いたキャピュレット家のティボルトは剣を抜く。ロミオに襲いかかる矢先に老卿が止めに入る。この家の中での流血は許さぬと。 その様子を見ていたジュリエットもまた、一目で恋に落ちる。 「あそこに居たのは誰? どうかお名前を教えてください。あなたにもし奥様がおありなら、私はこのまま墓場に向かいましょう。 ロミオ! ロミオ様と仰いますの? なんてことでしょう! たった一つの私の愛が、たった一つの私の憎しみから生まれるなんて」 ジュリエット演じるせつなが登場した瞬間、舞台の雰囲気が一変する。 自然と周囲の視線がせつなに集まる。 せつなの身にまとう空気が変わる。漂う高貴なるオーラ。制服を着ているのに、まるでドレスを纏っているように見える。 それまではラブの失敗だらけで、演劇は喜劇の様子を擁していた。その気の緩みが一新される。 クラスメイト全員の表情が引き締まる。これは――真剣勝負の舞台なのだと。 「待って! 東さん、ラブ。悪いけど、わがままを言わせて欲しいの。みんなも聞いて! 配役を変更したいの。このままではバランスが取れない。女の子が男の子を演じるのはずっと難しいんだって気が付いたの。 東さんをロミオに、ラブをジュリエットに変更してやり直しましょう!」 「由美っ!」 「私は――どちらでも構わないわ」 クラスメイトの一部から非難の声が上がる。せつなの美しいドレス姿を楽しみにしていた男子は多かった。 由美だって、そうだったはずなのに。 だけど、結局は彼女の熱意に押されて全員が承諾した。ロミオの美貌は、とてもではないがクラスの男子には荷が重い。 そして、ロミオは武人としての強さを秘めている人物だ。激しい殺陣も演じなければならない。運動の苦手なラブには厳しかった。 せつなが本気で演じると決めた瞬間から、これはただのクラスの演劇ではなくなっていたのだ。 舞台の作りも見直された。陳腐なセットでは、返って真剣な演技の雰囲気を打ち壊してしまう。 極力、大道具は使わないことになった。その分、照明と音楽に力を入れて演出する。 舞台はなるべく暗く、登場人物にスポットをあてて存在感を高める。 衣装や小道具も、よりリアリティのあるものを用意することになった。 おもちゃ丸出しの剣や、安物の布切れをくっつけただけの即席のドレスでは不十分なのだ。 「わかった。カツラや衣装、小道具に関しては心当たりがあるの。あたしに任せて」 「その前にラブはセリフを覚えないとね。ジュリエットもロミオと並んで多いのよ」 「それを言わないで……」 他にも一部配役が変更された。ロミオと剣戟を演じることになる、キャピュレット家のティボルト役と青年貴族のパリス役だ。 どちらも剣道部員と空手部員の有段者が務めることになった。 練習を進めていくうちにわかったのだが、普通の男子ではせつなの動きに付いていけない。 剣道も空手も、西洋の剣術とは直接関係ない。それでも立ち姿、体裁きの鋭さ、ハンドスピードの違いは明確だった。 目的はリアリティを与えること。どうせ演技は全員が初体験だ。ならばと、殺陣の立ち回りを重視したのだ。 練習開始初日にして大きな変更を迫られることになった。 それでも収穫のある一日だった。クラスメイト全員が一丸となって、本物を目指した劇の成功を誓ったのだ。 普段より遅めの夕ご飯。今夜はせつなもゆっくりと頂いた。 ラブの食事当番の日だったのだが、二人とも練習が長引いて帰りが遅くなってしまったからだ。 文化祭の主役に抜擢されてから、桃園家の賑やかな食卓は更に明るくなった。話のネタが尽きないのだ。 「おとうさん、お願い! この通り!」 「おいおい、普段はカツラなんて嫌がるのにどうしたんだい?」 「お芝居に必要なの。学校の備品じゃ物足りなくて……」 「わかった。他ならぬラブとせっちゃんの頼みだ、会社にかけあってみよう」 「ラブ、衣装や小道具も心当たりがあるとか言ってたけど、大丈夫なの?」 「うん、そっちはミユキさんに頼んでみるよ。昨年の文化祭でも色々借りたんだ」 やがてお話は練習でのできごとに移っていく。主役を交代したこと。せつなの演技が凄かったこと。 クラスのムードがこれまでにないくらい盛り上がっていること。 「ラブがジュリエットか~。女の子の役なんてできるのかい?」 「ひど~い! あたしは正真正銘の女の子だってば!」 「冗談だよ。ラブは華やかな子だからな、お姫様にはぴったりかもしれないな」 「わたしに似なくて良かったわね。物怖じだけはしない子だもの」 「だけって……」 「でも三年生なんだから、そっちにかまけて勉強がおろそかにならないようにね」 「はぁ~い。そうだ、台本も覚えなくっちゃ……」 「大丈夫よ、勉強もセリフの稽古も付き合うから」 「たはは、お手柔らかにね、せつな」 数日後、ラブとせつなで持ち込んだ大量の荷物を教室で広げる。 貴族を思わせる豪華な衣装。気品溢れるブロンドのファッションウィッグ。 本物の宝石かと見間違うほどのイミテーションの数々。その中でも一際輝きを放つのが―― どう見ても真剣にしか見えない光沢を放つ模造刀。古来より護身と決闘に使われてきた、レイピアと呼ばれる刺突用の片手剣だ。 「カッコいいな、コレ! 本物みたいなのに軽いし!」 「ちょっと、遊び半分で扱わないで! 刃が無いといっても、当たったら怪我くらいはするんだから」 「東さんに向けるんだってことは忘れないでね」 「私なら平気よ。命のやり取りの再現を、おもちゃでやりたくはなかったから」 さっそく練習が再開される。昨日の続きの決闘のシーンからだ。たちまち激しい剣戟のシーンが展開されていく。 本当に斬りあっているわけではない。どの角度で、どんな手順で斬りつけるのか、その全てに約束がある。 まるでダンスのように、決められた動きを演じるのが殺陣だ。 それでも、せつなの攻撃には殺気があった。格闘技経験のある男子はそれを敏感に感じ取る。 せつなは自ら刃を引き付けて、攻撃をぎりぎりで回避する。そして相手に繰り出す攻撃も、ぎりぎりで身体を外すのだ。 女子は悲鳴をあげ、男子は手に汗を握った。戦いの凄みは凄惨という言葉に置き換えられ、決闘の痛々しさを見る者に伝える。 「東さん、すごい……」 「すごいね。うん、凄すぎるよ。せつな、どうしちゃったんだろう?」 「どうかしたの? ラブ」 「家や教室じゃいつも通りなんだけど、お芝居をしてる時のせつなは、なんだか別の人みたいに思えて……」 「ロミオになりきってるってこと?」 「それもあるだろうけど、そうじゃなくて――」 精一杯頑張るのはせつなの生き方だ。何に取組んでも、全力で挑んでことごとく成功させてきた。 だけど、今回は違う気がする。なんだか生き急いでいるような、無理をしているような、悲鳴を上げているような……。 これではまるで――ラブだけが知るかつての彼女のようだった。 ラブの心に不安の影がよぎる。 (そもそも、せつなはどうしてシナリオを変えることを拒んだんだろう……) ラブの不安を肯定するかのように、通し稽古は悲劇の終盤へと向かっていった。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学文化祭(中編)――』へ続く